山西省四方山話 40
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希望小学校

1990年代。中国で「義務教育を受ける」という、基本的権利を享受できない子供が100万人以上もいた。そこで「経済的に富める者が貧しい子を助ける」活動が始まり、全土に広がっていった。山西省に於いても1990年7月に国内外の支援を得て、貧困地域の未就学児を無くし、小学校の改新築を進める活動を始めた。その事業を「希望工程」と呼び、校名は「~希望小学校」と統一。未就学児には学費を支給し、小学課程の修了まで援助するものであった。(1998年9月、会報14号・P4参照)

1996年、埼玉県日中友好協会の訪問団が山西省太原市を訪れた際、省政府と旅行社の責任者からこの「希望工程」事業の話があった。帰国した訪問団より、その内容を聞いた県協会はこの事業の支援を決めた。すぐに募金活動を始めると、会員と有志から多額の資金が寄せられた。

1997年、小学校の建設地は楡社県に決まった。そこは太原市から南に約100粁に県城があり、建築現場は更に30粁も離れた白北郷という山村。

その年の秋、私は友人と建設中の小学校を見に白北郷に行った。僻地な村にあると聞いてはいたが、近くに流れる川には橋が無く、車から降り裸足になって渡った。学校に着くと先生が数人出迎え、工事中の校舎を案内してくれた。近くに住んでいる子供なのだらう五、六人ついてきた。木造の校舎は、まだガラスが入って無く、教室には机、椅子も無かったが、完成間近な状況であった。私は、先生や子供たちと記念写真とカメラを構えると、子供たちは逃げて行ってしまった。先生は日本人を見るのは初めて、恥ずかしいのだという。

昼飯の時間となったが、近くに飯店など無い。村の中にはテント張りの駄菓子屋が一軒だけ。すると先生が我々の食べる麺で良ければ、と誘ってくれた。麺の好きな私は二つ返事でお願いした。

先生や工事の人達の炊事場は校舎の裏にあった。竃の上に置いた麺の機械で作ってくれた。これも拉麺なのか。タレはトマトを潰し、卵を交ぜて煮たケチャップの様なもの。それを麺に掛ける、見た目はパスタのナポリタンだ。食べると手打ちうどんの味。先生はこれが本場の拉麺という。その昔、マルコ・ポーロが中国で食べたのはこの「麺」なのか。彼がイタリアに麺を伝えた話は聞いたことがある。パスタのルーツは中国と言うのは真実かも知れない。

時を同じくして、富士見市日中友好協会もこの「希望工程」事業の支援に取り組んだ。会員と有志からの寄付、そしてチャリティーコンサートを開き資金を集めた。
(1998年2月、会報13号参照)

山西省対外友好協会は最初の建設地として、太原市から南西に約250粁、黄河に近い石楼県の韓家山村にと提案してきた。しかし良く調査すると、その場所への道は狭くトラックが入れない。電気も水道も無く建設を断念。本来、その様な僻地にこそ学校が必要なのだが、仕方なく他の場所を探すことにした。

次の候補地は、太原市から西に約200粁の方山県。県城から更に北方へ30粁、黄土高原にある開府村。そこも辺鄙な場所で宿泊施設は当然無く、近くに観光地も無く富士見市民との交流には不便ということで、この地も断念。「三度目の正直」で決まったのが、五台県の豆村鎮上陽村。その地は太原市から北に約200粁離れた山村だが、後に世界遺産になった仏教の聖地「五台山」に行く幹線道路が通っている。(1998年9月、会報14号参照)

1998年に建設資金を届けると、すぐに工事が始まった。私はその年の秋、友人四人と上陽村に行った。建築現場には十数人が働いていて、その中に何人もの村民が協力していた。校舎の一階部分はすでにレンガで組み立てられて、二階部分には鉄骨が組まれ、レンガやセメントを運び上げている。早速私たちも村民に混じって作業に参加、リヤカーで砂利や鉄棒を運んだ。私は炎天下の慣れない肉体労働で忽ち汗ビッショリ。しかし不思議と村人は汗をかいていない。私は昔「中国人は汗をかかない」と聞いていたが、噂ではなかった。

1999年6月1日、中国の“児童節”に「中日友好富士見・上陽希望小学校」の開校式を行い、会員、市民23名が参加した。(1999年9月、会報16号参照)


<開校後のあゆみ>

*実際の授業は、その秋から始まる

*富士見・上陽希望小学校「友の会」発足

*市立ふじみ野小学校と姉妹校となる

*図書室の充実に書棚、書籍。それと電子オルガンを寄贈

*水道施設費、及び暖房器具購入費を援助(2002年2月、会報19号参照)

*廃校となった、市内の小学校から机、椅子等の寄贈を受け、上陽小学校に輸送。経費の一部は埼玉県国際交流協会より助成(2006年11月、友の会“しゃんや
ん”20号参照)

*校庭を整備し、レンガを敷き詰める。経費の一部は埼玉県国際交流協会より助成

*卓球台を寄贈

*ふじみ野小学校児童と上陽小学校児童との書道、絵画、年賀状等の交換

*富士見市民との交流を二年毎に実施、学用品等を送る(2014年10月の訪問時に、富士見に伝わる民話の紙芝居を上演)