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里子を訪ねて (15)


*前塔小学校

 この小学校がある曲峪郷(現在は鎮)も臨県の西外れ黄河の辺りにある。県城からこの地方に行くには県の西に広がる黄土高原を越えて行く道と、南に行き磧口鎮を経て黄河に沿って北上する道とがある。黄河沿いの道は景色が素晴らしく旅の気分を味わえるが、遠回りで時間がかかる。

 2006年4月、埼玉県日中友好協会の山西省植樹事業である太原市郊外での植樹祭に参加した後臨県に向かった。この時は大同市で「緑の地球ネットワーク」の植樹事業にも参加する予定もあり、ここで里子を訪問する時間が少なかった。そこで曲峪郷には時間の掛からない黄土高原を越える道で行った。

 道は高原を下ると黄河にぶつかり、そこから北に走ると直ぐに街に着いた。郷の教育関係の役人が二人出迎えてくれた。前塔村はこの高原の上に有るという。
役人を乗せ走り出して暫くすると突風が吹き出し黄土の砂が舞い上がり、前方が良く見えなくなってきた。役人はこの時季は西からの黄砂も到来するという。風はますます強くなり空も霞んできた。黄砂も混じってきたのか一寸先も見通せない。役人は危険と思ったのか車を小さな飯店の前に止めた。昼飯には早いがここで食事と店に逃げ込み、風が収まるのを待つことにした。私は例によって垃麺を頼んだ。辺鄙な村の飯店であったが「麺」は旨かった。風の弱まった頃合をみて出発。

 前塔小学校は近くにあった。校舎は道路より低い所にあり、その脇に沿った坂道を降りて行くと、横の教室から児童が手を振ってくれている。坂の下にある校門から学校に入る。校庭を見ると狭いのになぜか所々に木が植えられている。校舎は二階建て、一階は黄土の崖に穴を穿ったヤオトン教室、その上に普通の教室が造られた変わった校舎の学校。昼休み時間なのか大勢の児童が校庭に集まり出迎えてくれた。先生は里子は21名いるが、今日は何人か休んでいるという。一人一人の写真を撮っていると私の周りに小さな子供が数人寄ってきた。中国的な髪型の子もいて皆可愛い顔。
土産の飴やチョコを上げたが離れない。先生に聞くとこの子たちは就学前の幼児組児童で、この学校も親が希望すれば入学できる。そして一年生と混じった教室で学んでいるという。

 私は以前に訪問した小学校で、幼児が混じって勉強している教室と、校内の壁に幼児の学用品費?元、教本、雑費は?元を持参、と書いた「掲示板」を写真に撮ったことがあった。

 私は校庭一杯に集まった児童を見て、大勢の割には教室が少ないと思い先生に聞くと、年少組には別の校舎も有るという。少し離れていたが見に行った。そこも黄土を穿ったヤオトンの教室で横に四つ並んでいる、端の小さな穴は厠所か。校庭に木を植えていないが狭い。とても運動場とは言えない。

 帰る時、私たちは何時も持参している土産のボールを、この小学校にはプレゼントしなかった。狭い校庭の先は千丈の崖、ボールが落ちると拾いに行けないのだ。

 黄土高原にある学校に行くと、どの地方も黄土と崖を上手く利用し、様々な形のヤオトン教室を造っている。私はこれを眺めながら何時も感心させられている。

 県城に戻る途中、この地方の名所と教えてくれた唐代の老柏樹が見えた。十数本の大木が丘の上に並んでいる。近くに行きたいが車は登れるかわからないという。外は風と砂ぼこりが舞っている。その黄土の道を歩いて行く勇気はなく、見たい気持ちだが無理と諦めた。