山西省四方山話 16
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温泉(2) 黄色人種





 山西省の温泉で名の知れた場所は十ヵ所ほど有り、南の方にも有名な温泉が出ていると聞いて出かけた。そこは黄河に近い運城市の東方で、古代に栄えた安邑と呼ばれた地方、夏県の温泉場である。
 安邑は神話の時代、治水の神禹大王の故郷で有名だが、それより前の黄帝の時代、中国で養蚕を始めた地方である。伝説によると黄帝の妃子ルイ祖が、この地夏県の西蔭村に桑を植え、蚕を育て絹を紡いだと伝えられ、シルク発祥の地といわれている。
 その歴史ある安邑地方は名所旧跡の多い地方だ。そこに奇妙な塔が建っている。太平興国寺塔だ。宋代に創建された十三層の仏塔だが、明代の大地震で塔頂から七層まで亀裂が入った。いつ崩壊しても不思議でない大きな裂け目で村民も不安でならなかった。ところが数十年後に再び襲った大地震でその裂け目が塞がり元の姿に戻った。しかし1920年の民国時代の大地震で頂上部から底部まで亀裂が入り、塔頂の飾りは崩落した。今も無惨な裂け目を晒して建っている珍塔だ。
 目的の温泉はこの近く県城の東にある。ここも温泉療養所となっており、ベットが500以上もあり庭園も広い最良の療養所だ。この温泉は源泉が三ヵ所あり、42度、45度、48度の温泉が出て、春夏秋冬どの季節でも楽しめる珍しい温泉場で知られている。そして日帰り入浴にも開放され、個室と大浴場がある。広々とした大浴場に二畳ほどのコンクリート剥き出しの空の浴槽が並んでいる。その一つに湯を入れる。太い鉄管の蛇口を捻ると湯が飛び出してきて瞬く間に一杯となる。

 山西大学から同行してくれた趙さんとのんびり浸かっていると、突然入口の扉が開き裸の若者が一人入ってきた。そして下湯も使わず我々の浴槽に飛び込んだ。

 中国人も我々と同じ黄色人種と言われているが、山西人の肌は日本人より少し濃い目だった。