山西省四方山話 13
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渋滞(2)  「峠の若者」



 1995年の秋、黄河瀑布の見学は初めてという三人と南部地方を廻った。黄河を見ての帰路は郷寧を抜け臨汾から太原に向かうコースをとった。

吉県から一時間ほど車は順調に走る。郷寧の県城を過ぎると間もなく小さな村が近づいてきた。遠くからドラや太鼓の音が聞こえてくる。

西坡鎮の村祭りだ。村に入って行くと道端に広げたゴザや屋台に品物を並べている。進むにつれ見物人も増え賑やかになってきた。店も増え道幅はどんどん狭くなり、対向車が来るとすれ違えない。店の者はいやいやゴザや売台を引き下げすれ違える幅を作る。交通整理のお巡りさんは居ないのかと見渡すと、制服制帽姿の警官が小さな屋台を組み立て商売の準備をしている。これから何か売るつもりなのか?この村の警官は仕事よりアルバイトを優先させているようだ。

お祭り騒ぎで渋滞の西坡鎮を過ぎホッとして間もなく嶮しい山道に入る。その先は山また山が続き峠を越えると街に出られる。間もなく道路は凸凹となってきた、工事中だ。大小の石がゴロゴロ、大きな岩を避けながら走ると前方にトンネルが見えたきた。近づくと石炭を満載した数台のトラックが止まっている。

また渋滞が始まった。入り口に止まっている車を何人かが取り囲んでいる。スコップやツルハシを持ったトンネル工事の若者たちだ。運転手から金を徴収している。私設の有料道路となっているのだ。

我々の車にも近づいてきた。運転手の梁さん免許証を出し、乗っている日本人は山西省政府が招待した人達だと言うも若者は承知しない。まるで「山賊」だ。すると道端の岩に腰掛け見張っていた大男が寄ってきた。親分なのか、梁さんと二言三言話すと“好”無事に通過できた。

しばらく走るとまたトンネルが見えてきた。やはり若者たちがたむろしている、前とまったく同じだ。逃げ道も回り道もない、このトンネルを通るしかない。抗議する運転手もいるが若者は聞く耳を持たない。強引に金を巻き上げている。

我々の車はこの「取締り」も無事に通り抜けた・・・が“一難去ってまた一難”とはこの事か。三ッ目のトンネルが見えてきた。ここは車が前より長く繋がっている。金の無くなった運転手は強行突破をしようとするが、アッという間に数人の若者が運転台にぶら下がる。こんな山にもハイエナの輩がいた。運転手を引きずり降ろす光景は映画のロケのようだ。小遣いも無くなった運転手は岩の上で何か書かされている。後で「通行料金?か、罰金?」を徴収に行く気か。

私は臨時の私設有料道路は通ったことがあるが、私設検問所も存在する無法地帯は初めてだった。

河津の県城に着いたのは二時を過ぎていた。昼飯に入った飯店の生ビールは格別うまかった。店内では若者がカラオケの“北国の春”を歌っていた。