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【体験実習】(1)

 帰国者の内、青年以上を対象にした教育科目に職業指導がある。それは公共職業安定所(ハローワーク)での就職に関する研修。所内を見学したあと、労働条件、同一労働同一賃金、最低賃金制度などの話がある。続いて求職に関する説明、求職票の記入方法の指導があり、実際に記入の練習をする。
 後日、実際の工場を参観に行く。そこで職場の状況や労働者の姿など見てくる。
 それと、青年を対象とした、実際の工場での労働を体験する実習がある。その実習する職場は職安に依頼して探してもらう。近郊の町工場が多いが、県外を斡旋されることもある。職種は多岐にわたり、単純な製品加工、梱包、運搬等の軽作業が多いが、重労働の職種もある。
 毎期の実施で年3回。男女合せて10〜15名程が参加する。鉄工場のような重労働の職場は男性のみ。女性の場合はクリーニングのような軽作業が多い。宿泊する場所は会社の寮が多いが、無い場合は近くのビジネスホテルか旅館を探す。 
 女性が実習したクリーニング工場は「夏は地獄、冬は天国」。作業場は蒸気が立ち込め蒸し暑く、夏は仕事を始める前から汗が出てくる。仕事はホテルなどから運び込まれる大量のシーツや浴衣など。それを機械で洗う、乾かす、伸ばす、畳むなど。作業が終わると全身汗まみれだ。宿舎に帰ってのシャワーが汗と疲れを流し取ってくれる。
 小さな町工場は屋内の作業場であっても暖冷房は無く、冬は寒風が吹き抜け、屋外と同じ寒さだ。
 そんな鉄工場で男性の体験実習があった。仕事は鉄道や自動車の鉄の部品を加工する、典型的な三K職場(危険・汚い・きつい)だ。狭い建屋の中は足の踏み場も無いほど部品が置かれている。
 作業前、社長の訓示は勤務時間の厳守に始まる。遅刻、勤務中の私語、タバコの厳禁は当たり前だが、話が、小便は休憩時間のみ、大便は家で済ませてくる。職場では禁止だ。中国の農村に育ち、工場での労働経験がない青年たちには驚く内容だ。会社で働くことの厳しさに不安顔になる。
 作業は、塊のような鉄の部品を運搬、加工された製品を梱包、倉庫に運び保管など。単純な肉体労働だが、落としたら大怪我をする。緊張の日々が続いた。
 仕事で体が汚れても風呂は無く、手を洗って宿舎に帰る。晩飯を食べ終わると疲れが出てくる。もう日本語の学習どころではない。テレビを見ても日本語が分からない。あとは寝るだけだ。この一週間の実習は労働の厳しさを学び、精神的な疲労を体験しただけと、青年の感想があった。