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【[清掃]・悪戯](2)】

 備品が壊されると、私は出来る修理は何でもやった。
 廊下、便所の窓に自動排煙装置が取り付けられている。ボタンを押すと上部の窓が自動的に開く。必要がないのに作動させる。ワイヤーを引っ張り絡ませて復位できなくする。それも何か所も壊す。業者に依頼すると高額な修理代となる。そこで装置を分解して修理する。しばらくするとまた壊す。イタチごっこが続く。水洗便所の排水用ハンドルも壊す。ぐるぐる回すので、空回りとなり排水不能となる。なぜか便器の蓋も外して割る。取り付け金具を便器の中に捨てる。居室のちゃぶ台に腰掛けて足を折る。これらは簡単に修理や部品交換ができる。厨房の自動点火のガス台のハンドルも壊れる。これは使い方が良く分からないからだ。
 ある帰国者が、中国人は「新しいものを見ると、壊したがる人がいる」と言ったが、頷けた。
 笑うに笑えない悪戯もある。職員がセンターの車で外出した。違反するような運転はしていなかったが、途中からパトカーがついてくる。何かと思っていると止められた。降ろされて車の後ろに廻ると、ナンバープレートが真っ白だ。ペンキが塗られ数字が見えない。職員は、この車は帰国者センターのもので、入所者の悪戯と説明する。警官もセンターの事情は良く知っていて注意だけで済んだ。プレートは再交付できないという。そこで、黒マジックで数字を書いてOKとなった。
 宿泊棟の電気設備に定期検査の業者がくる。点検が終わって帰るとき、車のドアーが開かないという。聞くと、鍵穴に釘が差し込まれ解錠できない。修理屋に依頼するハメになった悪戯だ。
 朝、出勤すると門の内側に車が横付けされて中に入れない。夜中に車置場から、青年たちが押して移動させてきたのだ。考えられない悪戯も発生するのだ。
 同じ敷地内にあるリハビリセンターには高いビルがある。そのビルの横に非常階段が付いている。そこを子供たちが登り降りして遊んでいると、リハの事務所から注意の電話。急いで行くと人の姿はない。ここ所沢から眺める富士山は美しい。晴れた冬の夕方、高所から眺める光景が素晴らしい。西に丹沢の山々、後ろに聳える富士山。夕焼けの空に真っ赤な太陽が沈んでゆく。富士山は黒いシルエットになっていく。中国人はみな富士山が好きだ。大人でも見とれる風景だ、子供が見たいのは当然だ。
 研修棟に行くには、このリハビリセンターの広い敷地を廻って行く。遠回りだが仕方がない。周りは高い金網のフェンスで囲まれている。帰りに近道と、そのフェンスをよじ登ってきた青年がいた。三角形の一辺を通る感じだ。乗り越えた場所がリハの自動車教習所だった。丁度練習中の車の前に飛び降りた。練習生は驚いて急停止した。運転していたのは無論身障者だ。そして、その恐怖心から再び運転の練習をしなくなった。そこで激怒した指導員はセンターに猛抗議した。身障者の運転免許証は生涯の生活必需品であり、人生を左右する重要なものだ。
 センター所長は頭を下げ謝罪したが、いくら頭を下げても謝りきれない事件だった。