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【[清掃]・悪戯](1)】

 共同生活で欠かせないのが共用場所の清掃だ。厨房、便所、浴室、外回り等を大人と青年に割り当てる。生活指導の時間で清掃の仕方、用具の使い方など説明する。当番表を張り出し各世帯にも配り、当番場所の札を部屋に吊るす。しかし、真面目に実行する家族は少ない。青年はサボる者が多い。職員が日々点検に巡回するが、手抜き箇所は職員が後始末と清掃をする。
 各自の部屋の掃除は当然家族で行うのだが、まったく掃除をしない家族がいる。窓も網戸も汚れたまま。畳が無かった生活で仕方がないが、畳も汚れ放題。冷蔵庫の汁や水が畳にこぼれても拭かないのか、退所後の清掃で冷蔵庫を動かすと、カビだらけの畳にキノコが2,3本生えていた。
 センターは、退所後に棟内の清掃を行なう。その作業を「友の会」に依頼していた。当日は朝から数十人の会員が居室、厨房、便所、浴室など、一日掛かりで清掃してくれる。暑い時期はみな全身汗まみれになる重労働だ。
 ある居室から女性の悲鳴が聞こえた。怪我かと、駆けつけると畳に何十匹のゴキブリが逃げ廻っている。掃除で動かした食器棚の裏側にはゴキブリがびっしりと張り付いている。ここで人間が生活していたとは思えない光景だ。ゴキブリに弱い女性が多いのか、次々と悲鳴が聞こえてくる。
 清掃のあと、全居室には殺虫剤を散布する。しかし、次の帰国者が入居すると直ぐにゴキブリが住み着く。生き残ったのか、拾ってきたゴミに付いていたのか、窓から入ってきたのか。また殺虫剤の散布となる。しかし、殺虫剤が弱いのか、それともゴキブリが強くなったのか、入所者が退所後の居室は同じようにゴキブリが巣くっている。そこで退所後の棟内清掃は専門業者に依頼することにした。
 退所日が近づくと、帰国者の最大の関心事である定着地が知らされる。この定着地が希望と異なり拗れてくると、それが原因で当事者は「上火了」(ストレス)が溜まり爆発する。そこで掃除も雑になり、サボリも悪戯も多くなってくる。浴室のバスタブは3人も入れば満杯になる狭さである。そこに一晩で100人以上も入る。湯は汚れ灰色に変わってゆく。蛇口から出る湯は徐々に冷たくなってゆく。ボイラーの容量が小さ過ぎるのだ。入浴中の人は我慢するが、あとの人は入れない。その為か掃除もしなくなる。
 朝、浴室を見回ると床が水浸しになっている。見ると排水口が詰まっているのだ。そこにトイレットペーパーが丸ごと押し込まれている。それを取り除くときが危ない。ペーパーの中にカミソリの刃が隠されていて、怪我をした職員がいた。 
 浴室にあるシャワーの首も、取付けフックも壊す。首の部分は新しい物と交換、しかし、新しいフックは古い物の取り付け穴が合わない。壁をドリルで穴を空ける。鉛の筒を埋め込みネジで取り付ける。
 庭は掃除するどころか返って汚す。ゴミは捨てるし、使用済みの生理帯を目に付くところに投げ捨てる。
夜中に二階から放尿する。便所では、わざわざ大便を便器の外にする。小便で床を水浸しにする。履き替えるスリッパを外に投げ捨てる。
 備え付けの公衆電話が二台ある。その料金箱の鍵を壊し金を盗む。鍵は裏側に有るので何か月も気がつかなかった。